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概要 | サンプリングと統計量推定 | 高次ネットワーク | メタサイエンス
人が関与する相互作用からなる複雑系に関心があります.こうした複雑系をネットワークとして捉え,その構造やダイナミクスをデータから特徴づけることで,社会構造を正確に理解することを目指しています.一方,現実のデータはしばしば不完全でノイズを含み,その背後にある構造やダイナミクスの推定には不確実性が伴います.そこで,データのサンプリングや潜在構造の推論などの統計的解析手法を開発し,実データの解析を進めてきました.
研究は「複雑ネットワークの統計的解析」と「大規模学術書誌データに基づくメタサイエンス」の二つを軸としています.メタサイエンス研究は,研究者からなる複雑な生態系に着目してその構造やダイナミクスをデータ解析により理解し,科学技術・学術振興政策の検討に資する知見を提供する実証研究と位置づけています.
密な議論を積み重ねながら,着実に研究成果を構築していく研究スタイルを大切にしています.データの構築・キュレーション,統計的解析手法の開発,大規模データを対象とした数値計算を得意としており,研究に関する議論や共同研究のご相談を歓迎します.最近は理論解析に軸足をおいたデータ解析の研究にも取り組んでいます.
最近は AI の利活用によって異分野間の知見を融合する学際研究の可能性が大きく広がっていると感じています.私も実際にいくつかの学際研究プロジェクトを進めています.こうした学際研究のご相談も歓迎します.
数億を超えるノード(個人やユーザ)から成る社会ネットワークは,社会構造を世界規模で理解するための貴重な情報源です.一方,プライバシー保護やデータ取得の制約から,ネットワーク全体を観測できることは稀です.2017年より,部分的な観測データからネットワーク全体の統計量を推定するために,ランダムウォークに基づくサンプリング手法とマルコフ連鎖に基づく推定手法を開発してきました.
友人関係を公開しないノードを回避してマルコフ性を保つランダムウォークを設計し,従来の推定量に生じる系統的なバイアスを低減する推定量を提案しました.実データでは既存手法の推定誤差を最大92.6%改善しました(KDD 2020,ACM TKDD 2023).この手法を有向グラフに拡張し,Twitter 上のボットアカウントの割合を推定する実証研究にも発展させました(IEEE Access 2022).さらに,サンプルから推定した統計量と観測した部分ネットワークの構造を同時に保存しながら未観測のノードとエッジを補完し,ネットワーク全体の構造を再現する手法を開発しました.YouTube の社会ネットワークでは,1%のノードの隣接関係を問い合わせる条件で,12種類の統計量の平均誤差を既存手法と比べて47.3%改善しました(ICDE 2022).近年はハイパーグラフのサンプリングと推定にも取り組んでいます(Applied Network Science 2025).
ランダムウォークで得たサンプルから社会ネットワーク全体の構造を復元する(ICDE 2022).
ハイパーグラフ上のランダムウォークを用いて,OpenAlex に収録された論文のオープンアクセス種別ごとの割合を推定する(Applied Network Science 2025).
集団での会話や複数人による共同研究など,現実の複雑系には多者間の相互作用が存在します.こうした複雑系は,任意の数のノードを一つのハイパーエッジで結ぶ高次ネットワーク(ハイパーグラフ)として表現できます.2020年より,高次ネットワークの構造やダイナミクスを解析するための統計的参照モデルと,潜在的な集団構造を推定する確率的ブロックモデルの研究に取り組んでいます.
統計的参照モデルは,特定の構造を保存して他の構造をランダム化したネットワークを生成するもので,現実のネットワークの解析で比較対象となります.ノード次数,次数相関,冗長係数,ハイパーエッジサイズをパラメータに応じて段階的に保存する参照モデル hyper dK-series を開発し,学校内の対面接触データなどの解析から,感染伝搬や協力行動のダイナミクスにはノードのどの統計量よりもハイパーエッジサイズが強く影響することを明らかにしました(IEEE TNSE 2022).米国の共同研究助成データにも展開し,共同研究への参加件数が多い研究機関が密に共同研究しあう現象と研究インパクトとの関連を解析しました(Scientometrics 2023).
確率的ブロックモデルは,ノード間の相互作用から潜在的な集団構造を推定するための確率的な生成モデルです.高次ネットワークではモデルの表現力と計算効率の両立が重要な課題となります.ノードの属性情報を活用して重複するコミュニティ構造を推定・可視化する手法(SNAM 2025)に加えて,相互作用するノード数によって集団構造の生成規則が異なりうることに着目し,表現力と計算効率を両立する多次確率的ブロックモデルを提案しました.多くの実データで単一の生成規則より予測性能が向上することを示しています(arXiv 2025).これらの研究は JST ACT-X の研究代表者として進めています.
hyper dK-series で生成した参照モデルと実データの間で,協力行動の進化ダイナミクスを比較する(IEEE TNSE 2022).
確率的ブロックモデルで推定したコミュニティ構造に基づき,職場の対面接触ハイパーグラフの個人を2次元空間に射影する.色は所属部署(SNAM 2025).
大規模な学術書誌データの公開が進み,研究者の活動や論文間の引用関係を手がかりとして,科学の構造やダイナミクスを複雑系の観点から分析する研究が国際的に広がっています.特に,研究者がどのように研究活動を行い,研究成果がどのように参照・評価され,知識体系がどのように発展していくかに関心があります.
1950年から2020年の約1億本の論文データを用いて,中国・日本・韓国の研究者数,研究キャリア,引用慣行における性別による不均衡を明らかにし,特に日本では格差が大きいことを示しました(J. Informetrics 2023).JST ASPIRE プロジェクトにおけるオランダとの国際共同研究では,引用ネットワークの構造を保存する統計的参照モデルを開発し,情報学分野で女性研究者が筆頭著者または最終著者である論文への過少引用が,特に上位の国際会議で顕著であることを明らかにしました(AIES 2024,Scientometrics 2026).
さらに,論文の出版間隔の生存関数に基づいて各年に活動中の研究者数を男女別・生産性別に推定する「研究者人口ピラミッド」の枠組みを提案しました.約1.5億本の論文データから58か国の研究者人口ピラミッドを構築し,若手研究者の流入が多い一方で生産性の性差が拡大するアラブ諸国,流入は緩やかだが性差が縮小する米国,双方の改善が停滞する日本など,国ごとに異なる発展の軌跡を明らかにしました(PNAS Nexus 2026).各国の研究者人口ピラミッドは Web アプリで閲覧できます.近年は知識体系の構造分析にも研究を広げ,論文の共引用ネットワークから推定した知識基盤のモジュラリティが,研究領域の出現や転換に対応して低下しうることを明らかにしました(arXiv 2026).
日中韓の学術界における性差.(a) 女性研究者の割合,(b) 総生産性,(c) 年間生産性,(d) 女性・男性が主導する論文への引用の過不足(J. Informetrics 2023).
3種類の参照モデルに基づき,筆頭著者と最終著者の性別の組合せ(M: 男性,W: 女性)ごとに論文への引用の過不足を定量化する(AIES 2024).